米国ソルガムきび視察ツアー(2)

米国ソルガムきび視察ツアー

テキサス州・カンザス州の産地と加工会社について

ソルガムきびは、主にテキサス州、カンザス州、コロラド州、オクラホマ州、サウスダコタ州の「ソルガム・ベルト」と呼ばれる地帯で生産されています。収穫は、温暖なテキサス州から始まり(6月から7月頃)、徐々に北上して、例年12月頃までにはすべての州で収穫を終えます。
今回の視察ツアーは、ソルガムきびの産地であるテキサス州とカンザス州を訪問しました。テキサス州の生産農家では、すでに8月中旬頃に収穫を終えていましたが、カンザス州の生産農家であるSuppes農場とBerning農場を訪れた際には、豊かに実ったソルガムきび畑を見学することができました。さらにツアーでは、食品ソルガムきびの加工会社であるNu Life Market社を訪問しました。

(1)Suppes 農場訪問

Shayne Suppesさん

Shayne Suppesさん

Suppes農場は、1960年代にShayne Suppesさんの祖父がソルガムと小麦を栽培し始めた3代続く家族経営の食品用ソルガムきび生産者です。家族5人で切り盛りする農場は、約5,300ヘクタールの敷地面積を有し、そのうち約2,000ヘクタールの土地で食品用ホワイトソルガムきびを栽培しています。
“We love Sorghum!”と何度もソルガムきびへの熱い思いを語ったShayneさんは、ソルガム生産者団体「United Sorghum Check off」の理事も務めており、品質の高い食品用ソルガムきびを生産するために日々注力しています。

カンザスの厳しい天候にも強いソルガムきび

Suppes農場では、3年で1サイクルの輪作を行なっています。ソルガムきびを栽培する年、小麦を栽培する年、何も栽培せず土地を休ませる年と輪作をして、豊かな土壌での栽培を心掛けています。
グルテンフリーのソルガムきびに小麦が混ざるのは禁物です。Suppes農場のサイロは、ソルガムきびと小麦を完全に分けているため、その心配はありません。
ソルガムきびの植え付けは、例年5月中旬から6月初旬までに行います。Suppes農場のソルガムきび栽培法は、「twin raw(双子のうね)」を採用しているのが特徴です。直線に植えず、40cm間隔でジグザグに植えているので、ソルガムきびの葉が茂ってもお互いに日陰になりにくく、生育を助けます。

テキサス州・カンザス州の産地と加工会社について

栽培の一番の問題点は、収穫前に気温が下がることです。例年10月中旬頃から霜が降りはじめます。Suppes農場でのソルガムきびの収穫は、11月頃から始まって12月末頃までかかります。穀物は品質が第一なので、収穫には機械のクリーニングやサイロでの保管条件など、あらゆるプロセスにおいて気を配っています。午前中はソルガムきびに露がついているため収穫作業ができず、だいたいお昼過ぎ頃から収穫を始めるので、3台のコンバインを使っても、貴重な晴天の午後に集中的に収穫します。
ソルガムは収穫に時間がかかる作物ですが、品質を保つためにも取扱いの手間を惜しまず、丁寧に行っています。

加工会社Nu Life Marketの契約農場として品質の高い食品用ソルガムきびを栽培

ソルガムきびの種は、契約しているNu Life Market社と契約したものを毎年蒔いています。今年は新しい品種の「ワキシー(もち性)」タイプの食品用ソルガムきびも栽培しており、生育状況は良好です。「もち性ソルガムきび (Waxy Sorghum)」は、ビールやウイスキーなどのアルコール醸造用に使用される予定です。
現在市場に多く出回っているのは、ホワイトソルガムきびです。それは、ホワイトソルガムきびが“グルテンフリー”、“Ancient Grain(古来穀物)”であることなどが市場で支持されているからでしょう。
Suppes農場のソルガム畑では灌漑をしていません。ソルガムは乾燥の強いカンザスの気まぐれな天候に強く、自然の降雨だけでも生育できるからです。“We love Sorghum!”と、にこやかに話すShayneさんは、ソルガムきびを持続可能性のある作物として収穫量を増やして、さらに世の中へ広めていくことを目標としています。

(2)Berning 農場訪問

Jon Berningさん

Jon Berningさんは、カンザス州スコットシティで5代続く農家です。ソルガムきびの他に、小麦、トウモロコシを栽培しています。ソルガムきびは、1980年代より栽培を始めて、現在、約2,200ヘクタールの土地に家畜飼料用とバイオエタノール用のソルガムきびを栽培しています。種子を提供しているパイオニア社のMike Kriegshauserさんと一緒に農場を案内していただきました。

ソルガムきびの栽培にもっとも適した土地、カンザス

「ソルガムきびは、非常に適応性の高い作物です、例えば、トウモロコシは雨が降らないと枯れてしまいますが、ソルガムきびは乾燥に強く、雨を待つことができる特性をもっています。私たちは、このカンザスがソルガムきびの生産に一番適した場所だと確信しています。」と、Jonさんが約30日後に収穫を控えたソルガムきび畑で、今年の生育状況を説明してくれました。

Berning農場で使用しているソルガムきびは全て家畜飼料向けで種子は、パイオニア社から仕入れています。ツアーで見学した畑は輪作で、昨年は小麦を栽培していました。今年は、成熟までに約103日という短期栽培のソルガム品種の種子を蒔いています。6月11日に作付けをしているので、9月末頃には収穫する予定です。1ヘクタールあたり、85,000の種子を作付けしており、Berning農場のソルガムの平均単収は、1ヘクタールあたり9.5トンです。「今年は例年に比べて雨が多く、生育状態は良好」というJonさんの言葉どおり、たわわに実ったソルガムきびが、広大な畑を美しく埋め尽くしていました。

パイオニア社の試験農場

Mike Kriegshauserさん

Mike Kriegshauserさんは、農作物種子会社であるパイオニア社で育種・改良を行っている農学者です。Berning農場へ種子を提供し、栽培について助言を行いながら、一緒に仕事をしています。Mikeさんが案内してくださったパイオニア社の試験圃場では、8種類のソルガムきびを試験栽培していました。

ソルガムきびの収穫に使用する農業機械

ツアーが訪れた際、Berning農場では、数日後に始まるトウモロコシの収穫のためにコンバインやグレインカート、トラックなどの準備が進められていました。ソルガムきび収穫の際は、アタッチメントなどをソルガムきび用の仕様に変えて、同じコンバインを使用します。コンバインには、ソルガムきびを約11トン貯めることができます。また、グレインカートは、約33トン、トラックには約25.5トンのソルガムきびを収納できます。

(3)ソルガムきびの研究・開発・製粉・加工を行うNu Life Market社

カンザス州スコットシティに本社を置くNu Life Market社は、食品用ソルガムきびの加工技術では、パイオニア的な存在です。同社は、食物遺伝学や化学に関する高い研究技術を有し、生産から製造まで含めてインテグレートされた企業です。また、食の安全性と品質に関する多くの認証を得ています。

高品質のソルガムきび製品を世界へ発信

Earl Roemer氏

Earl Roemer氏

Earl Roemer氏はNu Life Market社の社長であり、食品用ソルガムきびの生産者でもあります。農場での生産から、製粉・加工・包装・出荷まで一貫して食の安全性を考慮してプログラムされた同社の製品は、高品質で機能性の高いソルガムきび製品として評価されています。Nu Life Market社の製品は、米国大手食品企業ケロッグ社に採用され、また、全米だけでなく、世界7カ国に輸出しています。Earl Roemer氏は、非常に厳しい自然環境で育つ古来穀物ソルガムきびの特性に着眼し、専門性の高いスタッフと共に、ソルガムきびのさらなるポテンシャルを広げるために研究開発を進めています。

育種のスペシャリストが、様々なニーズに対応できる食品用ソルガムきびを研究

Lora Norquest博士

Lora Norquest博士

研究開発の責任者で、世界でも屈指の植物遺伝学者でもあるLora Norquest博士は、66の特許を取得しており、Nu Life Market社でソルガムきびの育種を行っています。色々な特性をもったソルガムきびの種子をデザインしています。最近注目されている機能性の高いブラックソルガムきびについても、15種類交配させて研究を続けており、近い将来には食品用としてより優れた品種を育種することを目標としています。

食の安全性を第一に捉える企業風土を形成

Asha Prasad博士

Asha Prasad博士

品質と食品安全の責任者であるAsha Prasad博士によると、Nu Life Market社は、食品の安全性を追求し、食品企業としては最高レベルの認証となる国際規格「FSSC 22000」の認証を6年間受けています。また、施設内は色々なアレルゲンフリー(グルテンフリー、ピーナッツフリー、乳製品フリー、大豆フリー)を維持し、食の安全性に関わるスタッフは、専門性の高いトレーニングを受けて、日々実践しています。
最近では日本への輸出認証も取得したため、Nu Life Market社が誇る高い品質の製品を日本の消費者が手に取る日も近いはずです。

ソルガムきびランチ

Nu Life Market社訪問の様子

 

次回の米国ソルガムきび視察ツアーレポートは、2020年に掲載予定です。