ソルガムきびに関する最新の研究について(テキサスA&M大学)
ソルガム研究の第一人者であり、植物栽培・植物育種の専門家であるBill Rooney博士と、ソルガムをはじめとする作物の機能性を研究しているJoseph M. Awika博士が研究をしているテキサスA&M大学Food Sorghum Genetics Labを訪問しました。Rooney博士からは、大学が開発した最新のハイブリッド種を実際に見せていただきながら、ソルガム遺伝学、育種のプロセス、最新のハイブリッド種の特性や利点等についてお話を伺いました。Awika博士には、多様な機能性をもつソルガムきびの食品への応用性について説明していただきました。
ソルガム遺伝学
新しいハイブリッドの開発には、平均して7~8年くらいの長い年月がかかります。さらに、ハイブリッドが商品化されるまでに数千、数万の組み合わせで品種改良を行うため、多くのツールを使い、求められる機能性に対して、常にパーフェクトな組み合わせを研究しています。
大学で開発したばかりの新しいハイブリッド「タンニン・ワキシー・ソルガム」は、抗酸化物質を持つと同時にもち性という非常にユニークなコンビネーションの品種です。食品グレードのために開発されているので、今後、スペシャリティ食品の原料や天然の抗酸化剤としての利用が期待されています。
さまざまな色のソルガムきび品種
食品用ソルガムきびのユニークな特性の一つとして、たくさんの色があることが挙げられます。イエローソルガムきび、ブラウンソルガムきび、ブラックソルガムきび等、ソルガムきびの実の色によって異なる病気や健康への利点があるため、様々な食品に応用することができます。
また、ブラックソルガムきびにはアントシアニンが含まれていますが、その色は、pH値の変化による退色が起こりません。他の野菜由来などのアントシアニンはpH値が上がると退色しますが、ソルガムきびはpH値のレベルを変えても退色が起こりません。自然由来の色が安定しているので、食品への応用がしやすく、魅力的な食材となるでしょう。現在研究段階なので、さらなる科学的裏付けが必要ですが、将来的にはソルガムきびの色によって、それぞれの利用ターゲットを定めていくことができると考えています。
利点の多いタンニン・ソルガムきび
ブラウンソルガムきび、ブラックソルガムきびはタンニンのレベルが非常に高い「タンニン・ソルガムきび」とも呼ばれ、非常に多くの利点が含まれています。他の穀物にはタンニンは含まれていないので、ソルガムきび独自のユニークな特性といえるでしょう。タンニンの長所としては、でんぷんを消化しにくくする働きがあるため、血糖値上昇に対する効き目があります。
その他の応用性として、タンニンの抗酸化性が挙げられます。タンニンは抗酸化性物質が多いので、肉など食品の酸化を低減する働きがあります。そのため、天然の抗酸化剤として効率的に使うことができます。例えば、ハーブの一種であるローズマリーは、自然由来の抗酸化剤としてすでに商用化されており、食品の酸化を抑制することは周知の事実です。研究では、ソルガムきびのタンニンを見ると、食品の酸化を完全に抑制していることが証明されています。タンニン・ソルガムきびの抗酸化性は、市場への潜在的メリットとなります。
ソルガムきびの硬度について
ソルガムきびの多様な機能性の属性として重要なのは、穀物の胚乳の硬度(かたさ)です。ソルガムきびは、胚乳の硬度により、食品への応用性が変わることが確認されています。例えば、胚乳が柔らかい「ソフトなソルガムきび」は、加工する際に粒子のサイズがコントロールできないため、種子の中身がバラバラになり、細かいパウダー状になってしまいます。また、カビが生えやすいため、食品への応用は難しく、育種には使用していません。
一方、それなりの硬さがあると、色々な加工法にとって有効となります。胚乳が硬い「ハードなソルガムきび」は、破砕すると大きな粒になるので、フレーク状にしたり、クスクスにしたり、ポップソルガムきびにしたりと、様々な食品に応用可能です。また、ソフトとハードの「中間の硬さのソルガムきび」は、硬すぎないので、粉砕するエネルギーが少なくて済む利点があり、粒子のサイズを管理することができます。このように、ソルガムきびの硬度(硬さ)によって、食品への応用方法を決めることができるのです。
でんぷんのタイプによって分類される機能性
比較的新しいハイブリッド種である「ワキシー(もち性)」タイプのソルガムきびのでんぷんは、ほぼ全てアミロペクチンという成分で出来ています。日本のもち米のような粘性があり、簡単に早く調理できて、消化性がよいという特性があります。アルコールを作る際にも、ワキシータイプは理想的です。なぜなら、早く発酵させることができるからです。
押出成形のスナックなどを作る場合は、普通のソルガムきびや他の穀物に、ワキシー・ソルガムきびを加えることによって、拡張性を高めるとともに、製品に柔らかさを加えることができます。
最新の研究課題は、ソルガムきびのタンパク質の含有量
現在、「ワキシー(もち性)」タイプのソルガムきびで、かつ、高タンパク質で消化率の良いものを育種できないか研究しています。一般的なソルガムきびのタンパク質は、親水性がありません。そのため、調理するには長時間水に浸す必要があります。新種のソルガムきびは、異なるタンパク質を持つため、吸水性がよくなっているので、ソルガムきびの調理が簡単に早くなり、製品の食感や品質を高めることができます。またタンパク質の消化性がよくなるので、菜食主義の方向けにも適した理想的な食材となるでしょう。
多様性のある食品ソルガムきびは“Grain of Future”
食品用ソルガムきびの特徴でもっとも重要なのは、ソルガムきびに含まれているでんぷんが難消化性であることです。難消化性でんぷんは、血糖値を下げる働きがあるため、タイプ2型の糖尿病患者にとって大きな利点があります。まだ動物実験の段階ですが、コレステロールを下げる働きについても研究が進んでいます。適度な難消化性でんぷんを含むソルガムきびは非常に健康に良い食物だということが分かります。
アメリカ社会は、肥満や糖尿病など様々な健康問題を抱えています。ソルガムきびに含まれる難消化性でんぷんや、ソルガムきびにしか含まれない種類のタンニンやアントシアニンをはじめとするポリフェノールなど、そのユニークな特性を通じて、ソルガムきびが「Grain of Future(将来の穀物)」となることを期待しています。