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ソルガムきびの腸内環境への影響
福島道広教授/帯広畜産大学

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ソルガムきびは、腹持ちが良いことが知られていますが、その理由ははっきりとはわかりませんでした。そこでアメリカ穀物協会では、帯広畜産大学の福島道広教授のグループと共同で、ソルガムきびの腸内環境への影響を観察しました。最初に、小腸で分解されないソルガムきびの「難消化性画分」を測定し、大腸モデル装置で腸内細菌のエサになることによって、乳酸菌が増えるなど、腸内環境に良い影響がみられました。しかし、生のソルガムきびは、動物実験によって動物の結腸でアンモニアができるなど、良くない影響もみられました。ソルガムきびを調理することによって、この良くない影響はみられなくなり、実際の動物の結腸でも乳酸菌が増えるなどの良い影響がみられることがわかりました。したがって、ソルガムきびは生のままではなく、調理することが大事で、調理によって大腸に運ばれるソルガムきびの難消化性デンプンが増え、プレバイオティクス様な働きを持つ有望な食品になる可能性が示されました。

ソルガムきびの難消化性画分には難消化性デンプンとタンパク質に富む

食物に消化酵素を働かせた後には、消化酵素に抵抗性の物質が残ります。全粒および精白ソルガムきびの粉に消化酵素を働かせて残ったこのような「難消化性画分」が、大腸に運ばれてからどのような挙動を示すのかを、水や熱を加えて調理していない未調理のソルガムきびをヒトの大腸と似た条件を持つ「モデル腸内環境」を用いて調べてみました。全粒と精白ソルガムきびの難消化画分は炭水化物を20~40%(うち14~16%は難消化性デンプン)、タンパク質を36%~58%含んでいました。難消化画分を大腸モデル装置による研究で、一部が資化されて、その結果、乳酸菌などの善玉細菌の数が改善されました。また、食物の難消化性デンプンなどの難消化画分は小腸の消化を免れ大腸へ流れ込むことによって腸内細菌が短鎖脂肪酸とよばれる物質を腸内発酵の副産物として作ることが知られています。難消化性デンプンを豊富に含むソルガムきびでは、培養24時間後に予想通り短鎖脂肪酸の中でも特にプロピオン酸(C3)とn-酪酸(C4)と呼ばれる物質が多く作られていることが分かりました。しかし、同じ腸内発酵によってタンパク質が分解された時に発生する腐敗物質であるアンモニアも12時間で上昇し、pH も上昇しました。

アンモニア量とpHの上昇が起こるのは、ソルガムきびの難消化画分にアンモニアを作るために必要な窒素を供給するタンパク質も多く含まれていて、これが悪玉菌に利用されてアンモニアができているのかもしれません。

生のソルガムきび粉中の難消化性タンパク質は、悪玉菌のエサになって腸内環境を悪化させてしまう

大腸モデル装置でのソルガムきびの難消化画分の発酵試験結果から、副産物の吸収や生理的影響を動物の大腸で観察するために、ラットに未調理のソルガムきび粉を1か月間給餌してみました。
大腸モデル装置での結果と同様に、ソルガムきびを与えたラットの盲腸(結腸の近位端)で乳酸菌の数が増えていました。しかし、ソルガムきびを与えたラットの大腸内では、大腸モデル装置では増えていた短鎖脂肪酸が増えていませんでした。これは、ラットの盲腸中で短鎖脂肪酸があまり作られなかったか、作ってもそれがラットの盲腸から吸収されてしまったためかもしれません。盲腸のpH、アンモニア量、体重、内臓脂肪の量、血清のデータについても、ソルガムきびを食べさせても変わりませんでした。

この理由はわかりませんが、未調理ソルガムきびから腸内細菌が作る短鎖脂肪酸の量が、ラットの盲腸内の環境改善は認められませんでした。

調理済みソルガムきびは、プレバイオティクスとして有望

人間が穀物を摂取するためには、様々な方法によって調理加工が行われますが、特に水を入れて熱を加えて調理する調理が多いと思われます。そのような調理中、炭水化物、タンパク質、脂肪といった栄養素は、その機能や性質が変化します。そのため、調理されたソルガムきびにおける腸内細菌とその働きにどのような影響を及ぼすかを調べてみました。

調理済みソルガムきびを与えたラットでは、盲腸(大腸の近位端)の腸内環境を良くする短鎖脂肪酸、特に酢酸とn-酪酸の量が改善されました。また、大腸壁を守る物理的バリア(粘液)の成分(ムチン)と病原菌と戦う物質(免疫グロブリン)も高くなりました。さらに、餌の摂取量、体重増加、内臓脂肪量と脂肪細胞のサイズが低くなりました。

これまでの観察から、調理済みソルガムきびから、腸内細菌によって腸内環境を良くする短鎖脂肪酸が作られていると思われます。また、短鎖脂肪酸の量は未調理ソルガムきびの場合より多く作られ、身体に良い影響を与えると考えられます。その結果が、ラットに良好な効果として現れたと考えられます。ソルガムきびを調理することによって、大腸に運ばれる難消化性デンプンが増え、プレバイオティクス様な働きを持つ有望な食品になる可能性が示されました。

(注)このまとめは、これまでに得られた試験管内及び動物実験の研究成果に基づいてソルガムきびの栄養学的な特性について参考利用のためにアメリカ穀物協会が記したものである。人に対する効果は検討をしていないため、このまとめのいかなる利用による責について、アメリカ穀物協会ならびに帯広畜産大学はそれを負わない。