クローズアップインタビューVol.2 長尾慶子 先生

クローズアップインタビューVol.2 長尾慶子 先生

PROFILE

長尾 慶子 先生

東京家政大学大学院 人間生活学総合研究科 教授。栄養、味覚など食物栄養学の面からソルガムきびを研究する。

今回は調理科学をご専門とする東京家政大学大学院 人間生活学総合研究科 教授の長尾慶子先生にホワイトソルガムきびの調理性についてうかがいました。調理科学とは聞きなれない学問のようですが、調理はすべて科学的に根拠づけら れています。食材の調理性を理解し上手に応用することで一層美味しく、かつ栄養を効率的に取り入れることができます。調理科学の観点からも優れた調理性を 持ち、汎用性の高いホワイトソルガムきびに期待が寄せられています。

ホワイトソルガムきびを調理科学の分野で研究
新たな食材として、汎用性の高さに期待

ホワイトソルガムきびをご研究されたいきさつを教えてください。

長尾先生
長尾先生昨今はアレルギー体質の人が増えています。我が国において子供の3大アレルゲンとされる小麦粉は、その中に含まれるタンパク質のグルテンがアレル ギーを引き起こす要因となりますが、ソルガムきびはグルテンがありません。ホワイトソルガムに小麦粉と同じような調理への汎用性が認められれば、小麦アレ ルギーに苦しむ子供達やその家族にとって素晴らしい代替え食品となるのではないかと思ったのが研究を始めたきっかけです。
これまでの研究から、ホワイトソルガムきびが高い汎用性を持つ素晴らしい食材であることがわかってきました。

ではご研究からお分かりになったことはどのようなことなのでしょうか。

長尾先生
まずホワイトソルガムが小麦粉の代替品に成り得るのかを、小麦粉を使った代表的な食品である、ドーナツ、クレープ、揚げものの衣を対象にして、吸油率、脱 水率、圧縮・破断試験、官能評価などの測定をしました。その結果、ホワイトソルガムは料理において最も重要といえる官能評価、つまり美味しさを人の感覚で 評価する試験での指標が高く、小麦粉同様の評価を得ました。小麦粉は様々な料理に使われている汎用性の高い食品ですので、これはホワイトソルガムへの期待 が高まるというものです。

ホワイトソルガムきびの調理性にはどのような特徴があるのか、もう少し詳しく教えてください。

長尾先生
ホワイトソルガムきびの調理特性はいくつかあるのですが、最大の特徴は小麦粉に比べ油の吸油率が低いので、低カロリーの揚げものを調理することが できることです。さらに食品からの脱水率も高いので、油で焼いたり、揚げたりするとカラッとした硬めの食感に仕上がります。ですからホワイトソルガムきび を天ぷらの衣やフライ衣に利用すると、外側の衣がカラッとして美味しい揚げ物が期待できます。

家庭でカラッとした美味しい天ぷらを調理できるというのはうれしいですね。
他にも何か特徴はあるのでしょうか。

長尾先生
ドーナッツのように膨らませる生地は、小麦粉のドーナッツよりも硬い仕上がりになります。これはホワイトソルガムきびがグルテンを含まないため に、発生した気泡を保持する力が弱く膨化性が低くなり、破断応力の高い噛みごたえになります。ただし今回研究用に用意した生地はホワイトソルガムに水、砂 糖、ベーキングパウダーだけで調整しているので、副材料や膨化剤の加え方を工夫すれば膨化性を改善できると思います。
また製粉の工程でホワイトソルガムきびをもっと微細粉にすると、膨化性を高めることも期待できます。同じようにグルテンを含んでいない米粉も現在では粉の粒子を微細粉化することで、膨化性が高まり、小麦粉と変わらない食感のケーキやパンが作れるようになっています。

調理特性をよく理解し副材料を工夫をするということも大切なのですね。ところでホワイトソルガムきびは、グルテンを含まないので粘性を出したい生地を作るのは難しいのでしょうか。

長尾先生
クレープの生地の粘性について小麦粉とホワイトソルガムきびで測定比較したのですが、小麦粉はグルテンの影響で生地を調整した直後から30分ほどで粘性が 最高値になり、時間の経過とともに一定値に落ち着いてきます。逆にホワイトソルガムきびは生地を調整した直後は粘性が非常に低いものの、1~2時間寝かせ ると小麦粉と同等の粘性を引き出すことができ、薄く均一化した良好のクレープが出来ます。これはホワイトソルガムきびが水の保持力が弱いためであり、充分 な吸水時間を与えるとでん粉が膨潤し粘性が高まるからです。よく生地を寝かせると良いと言いますが、これも調理科学に裏付けされた工程なのです。

調理特性をよく理解し副材料を工夫をするということも大切なのですね。ところでホワイトソルガムきびは、グルテンを含まないので粘性を出したい生地を作るのは難しいのでしょうか。

長尾先生
クレープの生地の粘性について小麦粉とホワイトソルガムきびで測定比較したのですが、小麦粉はグルテンの影響で生地を調整した直後から30分ほどで粘性が 最高値になり、時間の経過とともに一定値に落ち着いてきます。逆にホワイトソルガムきびは生地を調整した直後は粘性が非常に低いものの、1~2時間寝かせ ると小麦粉と同等の粘性を引き出すことができ、薄く均一化した良好のクレープが出来ます。これはホワイトソルガムきびが水の保持力が弱いためであり、充分 な吸水時間を与えるとでん粉が膨潤し粘性が高まるからです。よく生地を寝かせると良いと言いますが、これも調理科学に裏付けされた工程なのです。

ところで、ご専門の調理科学について教えてください。

長尾先生のレシピ長尾先生
「この料理のコツは・・・」などとよく聞くことがあると思いますが、昔から調理は経験とカンで作られている部分が多いのです。その調理の中に科学を見出し研究し始めたのが調理科学の始まりです。栄養学は20世紀初頭から確立されていましたが、調理科学は戦後始まったばかりのまだ新しい学問分野です。「コツ」といった漠然としたものでなく、正確に美味しい料理を再現するために科学の目で学ぶのが調理科学なのです。

熱の伝わり方、水の入れ方、温度の上昇の仕方など科学的に証明されてきた内容が、今の調理科学(調理学)の教科書に反映されています。

調理科学は、我々の生活とも関係のあるものなのでしょうか。

長尾先生
もちろん大きく関わっています。例えば、ご飯を炊くことひとつとっても、昔は水の分量も経験とカンに頼っていたところを、加熱中に米が吸収する水の分量、 蒸発する水の分量などを科学的に解明し、米の重量に対し、1.5倍の水を入れるとふっくらと炊けるといった水の分量を導き出したのも調理科学です。また、 授業には炊飯の科学といった内容の講義科目もあります。また米の粒は100℃近くの高温で20分以上加熱しないと充分糊化しません。この糊化のことをアル ファ―化というのですが、人間の体の中にはアルファアミラーゼというデンプン消化酵素があり、米などのでん粉の多い食品はアルファ―化しないと体内で消化 吸収できないのです。そこで消化の良いご飯にするには蒸らしも含めて20分以上の高温保持が必要ということが科学的に証明されており、その通りに調理する と粘りがあり、ふっくらと美味しいご飯ができます。この研究結果は炊飯器の開発と発展にも繋がっています。このように調理科学は今や我々の生活とは切っても切れないものになっているのです。

調理科学を学んだ学生さんは卒業後どのようなお仕事をされているのですか。

長尾先生
調理科学を学ぶことで、調理に慣れていなかった学生でも、シェフの作る料理を100%の出来とするならば、調理科学の知識を持って正確に再現すればその80%ぐらいは満足できる料理ができるようになります。
私が勤務する東京家政大学の栄養学科は主に栄養士の養成校なので、卒業後栄養士や管理栄養士として病院などで活躍する人が多くいます。しかし、いまや栄養 士はただ栄養管理を職務とするのではなく、その病状、健康状況に応じた美味しい食事を提供調理することが求められています。入院患者にとって食事は楽しみ であり、生きようとする意欲にも繋がる大事な事なのですから当然です。食べることは生きていくなかで最も重要な行為ですが、調理科学だからといって知識を 集積すれば良いというものではなく、実際に実体験をもって応用することで学んだことが活かせるものです。ですから当校でも実習に費やす時間は大切だと考えています。

調理科学において最近の潮流というのはあるのでしょうか。

長尾先生
予防医学の分野でも、調理科学は貢献しています。未病対策あるいは健康増進のための機能性を高める調理手法も研究分野の1つになり、大きなウエイトを占めてきています。
また、昨年の震災以降にクローズアップされてきたエネルギー問題を反映して、エコクッキングへの関心も高まっています。このように調理科学の分野は時代の要請に対応し進化し続けています。

調理科学とは非常に興味深く、かつ将来性のある分野ですね。
では先生のご研究からホワイトソルガムきびはどのような食品に応用可能とお考えでしょうか。

長尾先生
今回の研究はホワイトソルガムきびの特性を抽出するための基礎研究なので、ホワイトソルガムきびに加える副材料は、水、砂糖、ベーキングパウダー だけしか入れていません。それでも小麦粉と同等の美味しさの評価が得られたわけですから、他に卵、牛乳など他の食材を入れることでもっと美味しい食品をつ くることができると思います。また、小麦粉の代替として使うだけでなく、ホワイトソルガムきびの特性を活かした、独自の食品を考えると面白いと思います。
今回の官能評価で、10代後半~20代前半の若い女性は、小麦粉よりもホワイトソルガムきびの方を好む傾向がありました。彼女たちは、ホワイトソルガムきびの硬めのドーナッツの歯ごたえと深い味わいに好感を持ったようです。
今後は小麦粉の代替食品として同等の仕上がりを目指すのではなく、ホワイトソルガムきび独自の特徴を活かした食品を開発することも望まれているのではないでしょうか。

そうですね。最近はベーグルのような硬めのパンも人気ですし、官能評価で硬めのドーナッツが好まれたのもわかります。今回ご研究されたのは粉状のものですが、粒状のソルガムガムきびの可能性はいかがお考えでしょうか。

長尾先生
今日も、ホワイトソルガムきびの粒を使ったドリアをいただきましたが、お米で調理するドリアとはまた違った味、食感でとても美味しかったです。ホ ワイトソルガムきびの粒は日本の米のような粘りがないので、インディカ米を使うパエリアのような料理にも向いていそうですし、野菜感覚でサラダにしても美 味しそうです。
また、「米国産ソルガム レシピコンテスト」で審査員をさせていただいた際にも、メイン料理からスイーツまで様々なホワイトソルガムきびの粒を使った料理を試食しましたが、ホワイ トソルガムきびは粉だけでなく粒も素晴らしい調理特性を持ち、高い汎用性を持つ食材だと感じました。いつか研究をしてみたい興味深い食材です。

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